コラム | 第2話 つつかれる男

思わず観戦モードに入り徹夜してしまった選挙戦。
結果は予想通りの自民党の圧勝になった。

事の是非は聡明な皆さんの判断に任せるとして、 私は「ある党」の行く末を暗示する出来事に出会ってしまったお話をしよう。

それは選挙の二日前の金曜日の夜の事だった。

夜、10時過ぎ阪急沿線の小さな駅を出ると一人のタスキをした 候補者がマイクを持ち、駅の外灯の下に立っていた。
歳は30代半ば、小柄な人の良さそうなおぼっちゃま風な男である。

男は電車から吐き出されて来る通勤帰りのサラリーマンの集団が 改札に近づいてくる頃を見計らって声を出そうとした。

すると、そのサラリーマンの集団の間を縫って小柄な影が改札口から 飛び出し、男を取り囲んだ。5、6人のH学園という進学塾帰りの子供達だ。
たぶん、小学校5年生くらいであろう。

選挙権もないのに・・・。

選挙権もないのに・・・。

子供たちは「おっちゃん、自民党、なぁ、自民党!」とか言いながら 男の腹のあたりを指でつつく。
男は「いや、民主党」と答える。
選挙権もないのに…。
「えっ、自民党とちゃうの?」
「だから、民主党・・・」
「えっ、自民党ちゃうん!」
「民主党!!」
「へーっ、これ何て読むの?」
「そやから、民主党って書いてあるやろ」
「ふーん、で、何党?」

というような、無意味な会話を繰り広げている間に、 サラリーマン達はそれぞれの家路につくために駅から 離れていった。

私はしばらく歩いてから振り返り、まだ、外灯の下で 子供たちにつつかれている男を見ながら 思わず笑ってしまった。

私は子供たちが、親が駅に車で迎えに来る間の、 最高の暇つぶしを見つけた事を知っていたからである。

・・・そして、男は落選していた。