コラム | 第7話 海に立つ

日曜日、福井県和田港の防波堤に一人立っていた。

朝、9時頃、薄曇りだが、ほとんど波はなかった。
海面を覗き込むと小さな魚が藻の間を群れている。
1cmくらいの四角いフグの赤ちゃんやカワハギのチビ共が見える。

防波堤の上から、靴底で細かい石を蹴りこむ。
パシャパシャと音が立つと、どこからか小アジの群れがエサだと思って集まってくる。追いかけて小イワシの群れもやってくる。

メバルやガンベラの稚魚も混じっている。
豊かな海だな・・・一人でつぶやく。

大きな空に、黒く巨大な雨雲がゆっくりと溶け込むように流れ込んでくる。
雨粒がポツリポツリと海に小さな穴を開けていく。

レインコートのフードをかぶる。雨が激しく体を叩き始める。
うつむいたフードの端から雨がしたたり落ちていく。

やがて、強い風が吹き始める。小さな波が海面を凄い勢いで走り去っていく。
レインコートの裾がバタバタと鳴る。

停留してあるクルーザーのマストやワイヤーがヒュンヒュンと音を立てている。
体が風でおされる。眼鏡がしぶきで曇り始める。

11時。突然、暗い雲の間から一筋の光が差し、遠くの海を照らす。

風はまだ、強い。

やがて、神の息に吹かれたかのように次々と暗い雲が割れ、そこかしこに光があふれ、海面を照らし始める。
久しぶりに見る、海と空の壮大なドラマだ。

曇った眼鏡を、服の襟で拭き、掛け直す。

視界に一隻のプレジャーボートが入ってくる。
聞きなれた声がする。

『天使の梯子』

『天使の梯子』

「あほっ!遅いから出航してしもたわ」 「すまん、寝過ごした。釣れたん?」 「沖に出たけど、すごい風で帰ってきた。サオも出されへん」

「・・・ってことはボーズ?」 「おおっ・・・」

「ワッハハハハ!ハレルヤ!!」

「うるさい!ボート繋留するから手伝え!」
「はいはい、すみませんでした」

自然と神の至福を感じた一日であった。